株式会社ジズコ

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望遠鏡の倍率の選び方


望遠鏡の倍率

enjoy star wachinng適切な倍率の上限と下限の値はどのくらいでしょうか。望遠鏡の有効倍率はさまざまな要素によって異なります。有効倍率の範囲は最初から決まっているものではなく、視力、望遠鏡の口径や光学設計、大気の状態、さらに観測ターゲットの種類や大きさによっても変わってきます。星の光は大気および望遠鏡を通過して目に飛び込んできます。このように星光が目に入るまでは様々な媒体を通過するわけですが、それぞれの媒体が倍率を決める上で重要な役割を演じます。さっそく、その一つ一つを解説していくことにしましょう。

人の視力
我々の人間の目は驚異的なメカニズムを備えています。オートアイリス、オートフォーカス、非球面レンズ、曲像面、像捕力液、風防付き洗浄ワイパー、レンズカバーなどがすべて標準装備。さらに、2つのメカニズム(両目)で物体を立体的にとらえることもできるのです。
目自体は色の補正を完璧に行っているわけではありません。色の補正機能は人間の脳に内蔵されています。個人差はありますが、目にはその他にも不完全なところもあります。でも、そのほとんどは望遠鏡で補うことができます。なかでも最も多いのが乱視です。乱視は眼鏡(コンタクトレンズ)をかけるか、瞳孔の中心の小さな部分だけを使用することで補正されます。さてここで、両手の親指と人差し指を合わせてひし形の穴を作ってみてください。指を強く合わせるほど、できたひし形が小さくなりますね。次に、その穴を目に近づきます。分解能および焦点深度が改善されましたね(レストランで、眼鏡を忘れてしまった乱視の人が、メニューが見えにくくて困ったときに重宝なテクニックです)。
近視または遠視の人は眼鏡を外して望遠鏡を覗いてください。それぞれの視度の違いは、望遠鏡のピント位置で補正できます。目の内部にあるゴミや細胞の小片などの浮遊物は、瞳径が非常に小さくなる倍率で見ると目立ってきて問題になることがあります。
望遠鏡
望遠鏡には考慮すべき重要な要素がいくつかあります。まずは倍率について。ここでは角倍率のことです。宇宙は角度でとらえます。たとえば、倍率50の望遠鏡では月(1/2゚)が 25゚という広さになります。
倍率を下げるには、焦点距離の長いアイピースを使います。望遠鏡によっては、テレコンプレッサーを使うことで望遠鏡の有効焦点距離を短縮し、その望遠鏡で使用されているアイピースの倍率が下がります。逆に、倍率を上げるには、焦点距離の短いアイピースを使います。
バローレンズを組み込めば、短焦点の望遠鏡でも非常に高い倍率で見ることができます。ただここで注意すべきことは、この高倍率が必ずしもよいとはかぎらないということです。「600倍、6センチ」と数字だけを誇張したいわゆるおもちゃの望遠鏡は天文ファンの芽を摘んでしまう最たる例と言えるでしょう。そんなとてつもない高倍率で観測しても、視界は狭く、像は不鮮明、ブレが激しく使用には耐えがたいものです。適切な倍率についてはまたあとで解説します。
F値が眼視観測に決定的な影響を及ぼすことはありません。「ファースト(高速)」望遠鏡、すなわち、F値の小さな望遠鏡のこと。その焦点距離は短く、視界は広くとれます。しかし、この「ファースト」というのはもともと写真用語に由来するものです(たとえば、F5の望遠鏡に必要な露光時間は F10の望遠鏡の 4分の1)。眼視観測では、高性能望遠鏡で口径が同じなら、F値の大小にかかわらず像の明るさおよび分解能に差はありません。
双眼鏡ユーザーの多くにはこのことがよくわかっています。双眼鏡のスペックに口径、倍率、射出瞳径を挙げても、対物レンズのF値を記述するメーカーはありません。眼視観測の明るさという点ではF値に意味がないからです。これをどうしても理解してくれないのが写真家のようです。F値が小さいほどフィルム上の像やファインダーに映る像も明るくなるということを体験しているからでしょう。
視界というのもまた混乱を招きやすい用語です。望遠鏡の実視界とはアイピースから覗いて見える実際の天空の大きさです。実視界は視野絞りの直径(アイピースの対物側に位置し、視界の境界線となる環)と望遠鏡の焦点距離によって決まります。
ここに一般的な望遠鏡の最大視野をまとめてみました。

接眼部

焦点距離
500mm

焦点距離
2,000mm

31.7mm

3.2゚

0.8゚

50.8mm

5.5゚

1.4゚

焦点距離が極めて長いアイピースは、スリーブの先端を視野絞りとして使っていることがあります。これが、φ31.7mmよりもφ50.8mmアイピースの方が実視界を大きくできるという理由です。一般的な 50.8mmアイピースのスリーブ内径は 31.7mmアイピースのスリーブの 1.7倍。視野領域は 3倍になります。多くの場合、アイピースの視野絞り径はノギスで測定できます。なかにはレンズ間に視野絞りのあるアイピースもありますが、その場合、視野絞りで実視界を割り出すことはできません。イーソスの場合、100°
しかしながらスタードリフト法なら、アイピース+望遠鏡のどの組合わせでも実視界を求めることができます。天の赤道近くの星に目標を定め、モータードライブをオフにし、星が視野を横切る時間を測定します。赤道上の星は毎分15分(角度)移動するように見えるため、アイピースの視野を横切るのに要した時間(ドリフト時間、単位「分」)にその15を掛けることにより実視界の角度を分単位で求めることができます。
実視界のおおよその値は「アイピースの見かけ視界 ÷ 倍率」で求められます。しかしながら、アイピースの倍率が視界を直線に分布していないことに加え、幾何学的な「糸巻き形」ひずみを考慮しなければならないため、この計算値はあくまでも近似値となります。もちろん、計算値の詳細は設計者にしか分からないことなので、一般的にはスタードリフト法で実視界を正確に計測してください。
見かけ視界とは、アイピースを覗いて視野絞りが見える状態で、目で知覚できる角度のことです。2つのアイピースの見かけ視界を比較したいときは、双眼鏡を覗くときのように2つのアイピースを両目で覗いてみてください。その状態で両アイピースの視野周辺が重なるように近づければ簡単に比較できます。
見掛け視界と実視界最近の広角アイピースは観測する人の目を実に楽しませてくれます。左側上下2つの円は50゚の見かけ視界でとらえた視界、右側上下2つの円は80゚の見かけ視界でとらえた視界です。上の2つの円は、同一焦点距離(すなわち、同倍率)であるが見かけ視界の違う2つのアイピースで見える視界の違いを示した例。見かけ視界が大きくなると実視界も大きくなり観測できる視野領域が広がっていることが分かります。下の2つの円は同じ広さの実視界をカバーしていますが、左は焦点距離の長い(倍率の低い)アイピース、右は焦点距離の短い(倍率の高い)アイピースで見たときの様子です。つまり、右のみかけ視界80゚のアイピースはより高倍率でありながら同じ視野をカバーしているのです。
射出瞳とは、アイピースによってとらえられた対物レンズの像のことで、この位置に目を置くと視野全体を見渡せます。射出瞳の直径は「対物レンズの直径 ÷ 倍率」で求めます。双眼鏡の場合、射出瞳径は倍率と口径を指定することで間接的に決まります。射出瞳径は対物レンズのF値から計算することもできます。たとえば焦点距離 35mmのアイピースを F5の望遠鏡に使用した場合、射出瞳径は 7mmです。低倍率および高倍率に最適な射出瞳径というものはありません。射出瞳径が最適であるかどうかはいろいろな条件によって異なります。
分解能はいくつかの方法で定義できます。望遠鏡メーカーはドーズ・リミットを使ってきました。19世紀のイギリスでウィリアム.R.ドーズは小口径の屈折望遠鏡で観測し、分解能が「11.6秒 ÷ 口径1センチ(4.56秒 ÷ 口径1インチ)」のときに同じ等級の暗い二重星を識別できることを発見しました。もちろん、ドーズの使った望遠鏡と口径に大きな差があれば性能も違ってくるため、ドーズ・リミットは単なるガイドラインにすぎません。さらに、等級の異なる二重星では分解能は低くなります。
ドーズ・リミットでは、惑星面の詳細を見るときのコントラストの影響が考慮されていません。また、口径 9インチ(約 23センチ)を超えるくらいの望遠鏡になると、大気のシーイングの影響を受けるため分解能の理論値である1/2秒以上が実現することはほとんどありません。さらに、肉眼の分解能が1分の場合(平均的な視力の持ち主)、120倍もあればドーズの公式か大気のどちらかによって決まる分解能の限界を見ることができます。実際は、その倍率の2〜3倍でリミットを容易に見分けられます。倍率はいくらでも上げることはできますが、どんな望遠鏡でも 300xから 500xを越えた倍率で覗いても分解能が上がるわけではありません。
集光力は、ある望遠鏡でどのくらいの星まで観測できるのかを示します。たとえば、我々の目の瞳孔径を7mmとすれば、口径70mmで見ることのできる領域はその100倍です。これは5等級分の差に相当するため、肉眼で6等星が見えるとすれば口径70mmの望遠鏡では11等星まで見えることになります。ただし、これは光学系における光のロスを考慮に入れないときの話です。
スリーブ径が実視界を決めるスリーブ径がφ31.7mmとφ50.8mmのアイピースではわずかな差しかないように思えますが、後者の開口は直径で 31.7mmの 1.7倍、開口面積はおよそ 3倍。望遠鏡で観測できる実視界の限界をさだめているのがこの大きさ(開口)です。
大気の状態
よく晴れたそよ風の吹く日、やがて日が暮れ、雲ひとつない透明度の高い夜になります。このようなときは、暗い夜空でコントラストが上がり、天の川、星雲、淡い星々を見るには理想的なコンディションです。もっとも、ものごとには常に裏表があるように、そのような状態では乱気流が発生しやすくなります。これを「シーイングが悪い」といいます。このようなとき、小口径の望遠鏡では星が瞬いたり飛び跳ねたりして見えます。大口径の望遠鏡なら星の動きは均等化され安定しているものの、ぼやけたかたまりになります。天体観測を始めたばかりの人の多くには、透明度がよければシーイングが悪くなり、その逆の関係もあるということがあまり知られていないようです。もやの深い夏の無風状態のときに最高のシーイングを享受できることはよくあります。このときが二重星や惑星の詳細を観測する絶好のチャンスなのです。
すべての人々の前に立ちはだかるのが大気汚染と過度の屋外照明が相いまって発生する光公害です。私達の一人ひとりが自分達の惑星をきれいにしていかなければならないということです。しかし、天体を観測するには、とりあえず機材をまとめて車で郊外に出かけるしかありません。こうしてみると、口径の大小を問わずポータブルな望遠鏡が注目を浴びてきた事実もうなずけます。こちで星祭の催しが多くなってきたことも偶然ではなさそうです。
観測ターゲット
倍率を選ぶ前に、何を観測するのかをよく検討してください。小さく淡い系外星雲、球状星団、暗い星々の観測では、口径が最も大切な要素です。巨大なミラーと長焦点距離が幅を効かせていた時代もありましたが、そのころはF値の小さな望遠鏡で性能を発揮できるアイピースがまだありませんでした。今日では近代的な設計により諸収差が良く補正されたアイピースやコマコレクターが入手できるようになり、大口径かつ非常にコンパクトなドブソニアンがこれまでにない威力を発揮しています。大気の状態および光学品質が許すかぎり、口径30センチから76センチのドブソニアンを最大限に活用できます。そうなれば、対象の光度等級が問題になることはほとんどありません。
対象のコントラストはしばしばその明るさと同じくらい重要になります。口径の小さな屈折望遠鏡がコントラストの点で大口径反射望遠鏡をしのぐことはよくあります。望遠鏡の倍率を上げると、射出瞳径が小さくなり背景は暗くなります。とても暗い星が比較的高倍率で最も良く見えるのもこのためです。星雲など広がりのある対象のコントラストは背景に対して一定なので、倍率を上げていけば詳細がよりよく見えてきます。一般的には、対象を見分けるのに十分な大きさの背景がとれるかぎり、倍率を上げて背景を暗くしていくことができます(「黒色」の視野絞りを利用すれば背景の明るさを識別できます)。これは「星雲を見るときは射出瞳を大きくする」という古い言い習わしに反しますが、まずは自分の目と経験で確かめてください。
分解能はどのくらい必要でしょうか。ほとんどの大口径反射望遠鏡では、分解能はオフアクシス口径マスク(偏芯絞り)を使用したときに改善されます。つまり、大口径反射望遠鏡では、束の間でも全口径で得られるすばらしい高分解能を辛抱強く待つか、口径を絞ることにより分解能をいくらか落としてでも観測時間をより長くしたいか、という選択になります。もう一度繰り返しますが、シーイングが悪い場合、大口径では像全体が均等にぼやけてしまうことがよくありますが、小口径ではシャープな像をとらえます。
天体観測を美術に例えるならば、さしづめ宇宙が絵、望遠鏡がパレットといったところでしょう。対象をしっかりととらえてください。特に散開星団などは倍率を上げすぎると、何を観ているのかさえ分からなくなってしまいます。プレアデス星団のアルシオーネ星などを300倍で見ても、20倍から60倍で観たシャープな星像にはかないません。対象の位置関係がよく分かるよう対象の周りに十分な背景をとってください。短焦点望遠鏡の利点は、十分な視野が確保できるということです。短焦点望遠鏡ではいつでも倍率を上げることができますが、長焦点望遠鏡では広視界が欲しいときに限界があります。
低倍率で見る対象とは 1゚以上の広がりのあるものです。たとえば、散開星団、大銀河、天の川などの星野がそうです。プレセペ星団は 1゚、プレアデス星団は約 2゚、ヒヤデス星団は 5゚。網状星雲は低倍率でも高倍率でもすばらしい観測対象ですが、北アメリカ星雲の形を識別するには最低 3゚の視界が必要です。
今度は最低倍率について話を進めることにします。まずは、屈折望遠鏡と反射望遠鏡の射出瞳径の上限について。暗闇に慣れた人の目の瞳径が 7mmであることは一般的によく知られています。いわゆる夜間用双眼鏡の射出瞳径 7mmがそのよい例で、口径 1センチにつき 1.4倍で使用される望遠鏡の射出瞳径に相当します。
瞳孔の物理的な大きさが適切な射出瞳径とはかぎりません。さらに、反射望遠鏡と屈折望遠鏡とでも話は違ってきます。屈折望遠鏡には最低倍率がなく、射出瞳径の上限もありません。これには反論される方も多いと思いますので、ここで説明しておきましょう。口径 10センチF4の屈折望遠鏡に 55mmのアイピースを装着したとします。射出瞳径は約 14mm。瞳孔の最大の径は 7mmなので、口径の半分がむだになり、5センチの望遠鏡でのぞいているのと同ではないかと言う人もいるでしょう。その人に言わせれば、光と分解能を無駄にしていることになります。
確かに望遠鏡の口径は無駄になりますが、瞳孔いっぱいに光があたっているので瞳孔が受ける光を無駄にしていることにはなりません。実際、その倍率(7.3倍)で可能な最も明るい像をとらえているのです。昼間、瞳径がわずか 3.5mmのときに 7x50の双眼鏡を覗いたとします。瞳孔径にマッチした 7x25で覗いたときよりも像が暗く見えますか。答はもちろんノーです。ただ言えるのは、このような低倍率では 5センチ望遠鏡と 10センチ望遠鏡の分解能に差がないということです。
7倍で射出瞳径 14mm、明るさと分解能に問題がない状態であれば、この光学系に何かメリットがあるでしょうか。もちろんあります。7xではφ50.8mmのアイピースが直径 7゜以上の実視界をもたらしてくれます。たとえば、天の川を観測するほどの視界が必要であればなおさらです。もちろん、7倍の望遠鏡が特にすばらしいと言っているわけではありませんが、広視界というメリットがあるのです。
反射望遠鏡でも同じことが言えるでしょうか。その答はノーです。一般的な反射望遠鏡に付いている副鏡のせいで、よりきびしい制限が生じてきます。副鏡の影が口径に対して20%に満たないニュートニアンもあれば、45%以上のカセグレン望遠鏡もあります。後者で射出瞳径が14mmになると、その中心に直径 6mmを超える黒い影が見えます。これは極端な例ですが、反射望遠鏡の副鏡を小さくし射出瞳径を約7mmから8mmに抑えることが重要だということです。副鏡が大きいと瞳孔の中心に届く光が遮られ見えが悪くなりますが、実はこの中心が人の目で最もシャープな像をとらえることのできる部分なのです。
低倍率で問題になる中央遮蔽屈折望遠鏡には低倍率の下限がありません。しかしながら、ほとんどの反射望遠鏡には副鏡の影が見え低倍率の下限が存在します。これは極端な例ですが、中心の影が口径の 43%を占める 20cmシュミット・カセグレンで見える射出瞳の写真です。テレコンプレッサー・レンズと長焦点アイピースを使うと倍率は 14xになります。中心の影は依然として射出瞳径の 43%なので、その直径は 6.2mmになり、暗闇に慣れた目の瞳径7mmをほとんど覆ってしまいます。
低倍率で重要なことは対象をうまくとらえることです。つまり、視野内にすっぽりおさまった像をできるだけ高い倍率で見るのがベストなのです。前述のとおり、倍率を上げると背景が暗くなり、淡い星々や対象の細部まで見えてきます。射出瞳径を小さくすると、視力の欠陥は最小限に抑えられ、反射望遠鏡の副鏡による影も最小化されます。
高倍率の対象としては、月、惑星、球状星団、惑星状星雲、小系外星雲、小散開星団、二重星などが挙げられます。高倍率は、望遠鏡の口径と対物光学系の精度、アイピースやバローレンズの精度、およびマウントの安定性などの制約を受けます。
またたく星はできるだけ避け、天頂に近い対象を観測します。高性能なアポクロマート屈折望遠鏡やフローライトレンズを採用した屈折望遠鏡などはすばらしい惑星像をとらえますし、むかしながらの長焦点アクロマート屈折望遠鏡や比較的副鏡の小さな反射望遠鏡なども高倍率で威力を発揮します。F値の小さな望遠鏡の性能をフルに発揮させるには、複雑な構成の高級アイピース、高品質なバローレンズが要求されます。バローレンズは像質を向上させ長いアイレリーフを保つので、高倍率での観測をより快適に行うことができます。
また、高倍率観測に必要なマウントの堅牢さやスムーズな動きも無視できません。せっかく光学的に優れた望遠鏡を購入しても、マウントがぶれてしまえばだいなしです。ドブソニアンはもともと安定した設計ですが、高倍率では頻繁に方向を修正することになります。その修正も、広角アイピースで視界を広げることにより最小化でき、観測効率も向上します。
倍率を上げすぎると、対象はぼやけてコントラストが悪くなります。また高倍率の対象は、大気のシーイング、望遠鏡の調整不良、光学系の欠点などの影響をより大きく受けます。「できるだけ低い高倍率」で見ることが高倍率で観測するときのこつです。
像のシャープネス
像はどこまでシャープにできるか。前述のように、ドーズは分解能の限界を実際の観測経験に基づいて定義しました。でも、どうして分解能に限界があるのでしょうか。光は電磁波で構成されています。池に石を投げたときに生じる波のように、光の波はぶつかり合ってあるところでは増強し合い、またあるところでは打ち消し合うのです。望遠鏡の丸い口径が光を回折するので、星像の周りに明るいリングと暗いリングの連続ができます。この現象は、アイピースを通して見た像を焦点位置の内外で見たときにはっきりと現れます。
焦点の合った星像は一つの小さな点になり、その周りには 1つ以上の淡い回折リングが取り巻きます。望遠鏡の性能が不十分だったり大気の乱流があると、この回折パターンは見えにくくなります。完璧な像をとらえた場合、エアリーディスクという中心の点に口径から入ってきた光の84%が集まります。そして、7%が第1リングに、残りの光はその後に続く淡いリングに分散されていきます。
19世紀のイギリスの物理学者ロード・レイリーは二重星を対象にしてドーズよりも若干緩やかな分解能の限界を定義しました。彼の考えによると、2つの星が分離するのは一方の星のエアリーディスクの中心が、もう一方の星の回折パターンの第一暗環に掛かっているときです。レイリーの分解能は 14秒を望遠鏡の口径のセンチで割った値です。回折パターンがきれいに見える倍率に到達すると、そこからいくら倍率を上げても、それ以上は何も見えてきません。
ベテランの観測者が惑星の詳細を見るときは、口径 1センチにつき 8xから12xで観測します。二重星を観測する人は倍率を口径 1センチにつき 20x(射出瞳径1/2mmに相当)以上に上げて観測します。この倍率を越えると、望遠鏡の性能と目の限界のため見えが悪くなります。
シャープネスは大気の状態に制約されています。どんな望遠鏡をもってしても、高性能 10センチ望遠鏡の 2倍から 3倍の性能を発揮できるだけの大気状態を見つけ出すのは至難の技です。「シャープネス = 分解能」というわけではありません。球面収差、焦点ぼけ、副鏡障害などはエアリーディスクの光を奪い、その光量は回折リングに分散してしまいます。副鏡障害が 50%あるときエアリーディスクの明るさは第 1回折リングの 10倍までですが、副鏡障害がなければエアリーディスクの明るさは第 1回折リングの 50倍になります。副鏡障害のある光学系でもレイリーリミットの二重星を分離できますが、大気の影響によるわずかな焦点ぼけでだめになってしまいます。
光量がエアリーディスクから回折リングに移行することが原因で、惑星細部がシャープに見えなくなることもあります。これが、ニュートン式望遠鏡を惑星観測に使うときに、その副鏡をできるだけ小さくしたい理由です。大口径のドブソニアンで最高の分解能とコントラストを実現するには、オフアクシス口径マスクをかぶせます。これで副鏡障害がなく色収差のない像をとらえることができます。その際、マスクの位置は鏡筒内対流を最小化できる主鏡付近がベストです。主鏡が 43センチの場合、副鏡障害の影響を受けない口径は 15センチまで。
超大口径ドブソニアンでも・・・空は実に様々な観測対象で満ちていますが、それぞれの対象に適した倍率でとらえるべきでしょう。たとえば視野直径 1゜以上もあれば、夜空に輝くプレアデス星団のすばらしい姿が映し出されます。メローペ近辺の星雲のデリケートな細部を調べるには、もっと倍率を上げて視野を狭くしてもいいでしょう。上の写真は、カリフォルニアの天体写真家キム・ザスマンがセレストロン11で、ガスハイパー処理されたコダック・テクニカル・パン2415フィルムを使い、露光時間 2時間30分で撮ったものです(最も明るい星から放たれている回折スパイクは通常のシュミット・カセグレンで撮った写真には生じませんが、この望遠鏡は改造されています)。
ほとんどのアマチュアにとって、天体観測は美の探求です。望遠鏡、観測対象、大気条件が多種多様であることを考えると、倍率の上限下限を定義するのもくちはばったいようですが、一般的に次の 2つのことは言えそうです。「最良の低倍率とは対象をとらえられる最も高い倍率」、そして「最良の高倍率とは求めている詳細が識別できる最も低い倍率」ということです。

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