テレビュートップ

従来、アイピースの選び方は倍率を基準に選ぶ方法が普通でした。 アイピースの種類がほとんど無かった時代には、この選択方法しかなかったといって過言ではありません。 つまり、広角アイピースのバリエーションがなく、高倍率はオルソ、中・低倍率はケルナー、そして、ハイゲンスといった時代です。 しかし、現在の状況は大きく変わっています。見掛け視界80°を超す超広角アイピースや、65°クラスの広角アイピースが容易に入手できます。 単純に倍率だけでアイピースを選ぶのではなく、実視界(アイピースの持つ視野環の直径)に配慮して選ぶ意義と方法について 以下詳説いたします。併せて望遠鏡の倍率をご参照いただければ一層理解しやすいと思います。




● 倍率

倍率 = 望遠鏡の焦点距離 ÷ アイピースの焦点距離

倍率とは、角倍率のことで、一定の倍率を持った望遠鏡で対象を見たとき、その倍率に応じた角度に拡大されるということです。例えば、月は1倍の肉眼で見ると約0.5°の角度を持った円形に見えます。それを100倍の望遠鏡で見ると0.5°の角度が100倍拡大され、0.5(°) × 100(倍) = 50(°) です。つまり、望遠鏡を100倍にして覗くと、PLの見掛け視界と同じ大きさの円約50°の月が見えることになるわけです。



● 実視界

実視界 = アイピースの見掛け視界 ÷ 望遠鏡の倍率

この公式は一般的ですが、アイピースの収差が加味されていませんし、見掛け視界の公称値を前提にするため、必ずしも正確ではありません。アイピースの視野環の大きさが正確にわかっていれば、次の公式により、アイピースの収差に影響されない正確な値を得ることができます。

実視界 = (アイピース視野環の直径 ÷ 望遠鏡の焦点距離) × 57.3°

また、どんなアイピースでも計算で実視界を割り出すことはできますが、「実視界=有効視野範囲」でなければ意味がないということに注意が必要です。


● 視野環と見掛け視界
アイピースには「正のアイピース」と「負のアイピース」の2種類が有ります。前者は視野レンズの前方に視野環を置いたタイプで、プローセルやパンオプティックがそれに相当します。視野環がバレル内の視野レンズ前方に位置し、その径をノギスで計測することが出来ます。後者は、視野環がレンズ系の内部に組み込まれたタイプで、ナグラー、ラジアンが相当します。このタイプはノギスで視野環径を計っても意味がありません(テレビューでは視野環径の実効値を公開)。視野環に位置に対物レンズの実像が結ぶので、この直径でアイピースの実視界が決まります。
下の図は視野環をかすめる3本の光束の軌跡を描いたものです。射出瞳の位置に目を置いたとき、光軸(赤い線)とアイピースから出る光線のなす角度の2倍が「見掛け視界」を表します。ほとんどのアイピースは見掛け視界のデータが公開されています


● 射出瞳
射出瞳とはアイピースにより形成される対物の像のことです(図参照)。この場所に目を置くことで全視野を見渡すことができます。射出瞳の直径はアイピースの焦点距離を、望遠鏡のF値で割ることで求められます。

射出瞳径 = アイピースの焦点距離 ÷ 望遠鏡のF値

(あるいは、射出瞳径 = 対物レンズの有効径 ÷ 望遠鏡の倍率)








● 広実視界観望、視野環径20mm以上
アンドロメダ星雲、二重星団、北アメリカ星雲など、広い実視界を必要とする対象を観望するときや、望遠鏡を低倍率のファインダー代わりに使うときは、まず実視界をできるだけ広くとれるアイピースを選んでください。31.7ミリ径、50.8ミリ径アイピースとも、バレルの物理的な制限から、視野環の最大直径はそれぞれφ27mmとφ46mmです。望遠鏡の焦点距離やその口径比(F値)を勘案し、最適な広実視界のアイピースをまず最初に選びます。例えば、口径が178mmで焦点距離が800mm(F4.5)の望遠鏡があったとします。最も実視界が広くとれるアイピースは、視野環径φ46mmのPlossl 55mmとPanoptic 41mmです。PL 55mmでは倍率15倍、PO 41では19.5倍、実視界はともに3.3°です。素晴らしい広視界を実現できましたが、射出瞳径はPL 55mmで12.2mm、PO41mmで9.1mmと、ともに大きな値になっています。この望遠鏡が反射式であり、副鏡の直径が主鏡径の1/3であったとしたら、アイピースの射出瞳の中心に現れる中央遮蔽の黒い影の直径がPL 55で4mm超、PO 41mmで3mmになります。遮蔽影の大きさもさることながら、大きな射出瞳による明るい視野背景も懸念され、別のアイピースを選んだほうが賢い選択になるでしょう。実視界こそやや制限されますが、Nagler5 31mm(倍率26倍、実視界3.1°、射出瞳径6.9mm)や、PO 35mm(倍率23倍、実視界2.9°、射出瞳径7.8mm)が、この望遠鏡ではよりよい選択といえます。広実視界アイピースの選択は、組み合わせる望遠鏡の規格に配慮しないと思わぬ落とし穴があります。ドブソニアンなど、短焦点反射光学系の場合、上の例のように、最大実視界を制限せざるを得ない場合があります。



● 中実視界観望、視野環径20mm以下
最初に望遠鏡にマッチした最大実視界(低倍率でもある)アイピースを選んだら、次により視野環の小さなアイピースを1/2間隔で揃えていきます。たとえば、最大実視界で視野環が40mmの場合、視野環が20mm前後のアイピースを選びます(面積比では1/4ずつ小さくなる)。すると、視野環が約40mm、20mm、10mmのアイピースが揃うことになります。さらに、その中間を埋めるには、視野環が約28mmと14mmのアイピースを追加します(1/1.4系列)。一般的に、同じ形式のアイピース群(たとえば「ナグラー」)から選ぶことで、視野環径と倍率の関連づけが合理的になります。
また、視野環径が同一で、アイピース形式が異なる場合(*注)、見掛け視界がより広いアイピースを選ぶことで、倍率が上がり(射出瞳径が小さくなり)背景コントラストが向上し、対象がより詳細に見え、より暗い星を観望できるようになります。

*注 視野環径が12mm+でほぼ同じ(実視界が同じ)PL15mm、Delos10mm、N6-9mmの3本が、上記の内容に当てはまります。


● 狭実視界観望、視野環径10mm以下
狭実視界領域においては、視野環径の1/1.4倍系列(または1/1.2系列)で選ぶことが合理的です。狭実視界観望は必然的に高倍率観望でもあり、ほんの数ミリの焦点距離の差が観望対象を分けることにつながるからです。1/1.4倍系列で7mm、5mm、3.5mmです。このように、視野環径を基準にアイピースを選んだら、今度は組み合わせる望遠鏡で何倍になるか計算してみてください。惑星を表面模様の観察に適した見やすい大きさにするときや、比較的近接した二重星の観望には、少なくとも150倍程度になるアイピースが必要です。最高倍率を決めるには経験則がものをいいます。口径が15センチより大きな望遠鏡の場合"口径1センチあたり20倍"という通念に従って使用するのは難しいということです。有効な最高倍率を実現するアイピースは、実運用によって判断すればよいということです。
話を狭視界に戻すと、自動追尾のないドブソニアンなど望遠鏡の形式によっては、高倍率でもできるだけ広い実視界がほしい場合があります。見掛け視界が82°の「超広角」ナグラーを選ぶことで「その倍率で最大の実視界」を得ることができ、絶対的におすすめできるアイピースです。その場合、個々の望遠鏡の光学系、また架台の状態にも依存しますが、快適に観望できる最狭実視界が高倍率の限界、といえます。



● さいごに

アイピースの選び方に絶対はありませんが、基本的にはこう言えそうです。低・中倍率アイピースは観望対象が視野に"すっぽりと収まる"視野環の直径を前提に、できるだけ倍率の高いアイピースを選び、高倍率アイピースは望遠鏡の口径を前提に、惑星や二重星に対して望遠鏡の理論分解能を確認でき、かつ高いコントラストで見え、かつ快適な操作性が維持できる、できるだけ倍率の低いアイピースを選びます。


---Original Concept by Al Nagler、2001/05/28 (ver1.2b)